「アメリカン・スナイパー」@一ツ橋ホール

　今回、私は「OK Wave」さんにご招待された。試写会の客入りは8～9割位。客年齢は高めで男性客が多い。




　　　映画の話
　イラク戦争に出征した、アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズの隊員クリス・カイル（ブラッドリー・クーパー）。スナイパーである彼は、「誰一人残さない」というネイビーシールズのモットーに従うようにして仲間たちを徹底的に援護する。人並み外れた狙撃の精度からレジェンドと称されるが、その一方で反乱軍に賞金を懸けられてしまう。故郷に残した家族を思いながら、スコープをのぞき、引き金を引き、敵の命を奪っていくクリス。4回にわたってイラクに送られた彼は、心に深い傷を負ってしまう。

　　　映画の感想
　米海軍のネイビーシールズに所属するクリス・カイルの自叙伝「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」を、ブラッドリー・クーパー製作、主演、クリント・イーストウッド監督で作られた作品であるが、どうも日本では「クリント・イーストウッド監督作品」と言うフレーズが独り歩きしてしまい、過大な期待が寄せられた作品である。

　蓋を開ければイーストウッド監督作品として見ると、決して悪い映画では無いが、イーストウッドは「ジャージー・ボーイズ」に引き続き、個性を消して職人に徹した印象だ。しかし、現在84歳の監督が演出したと思えないシャープで現代的な演出には驚かされる。

　　　以下ネタバレ注意

　まず冒頭にクリスのスナイパーとしての初仕事を途中まで描き、カイルの足跡が少年時代から時系列で描かれる。父親との鹿狩り、恋人の裏切り、後に妻となるタヤとの出会い、アメリカ同時多発テロ事件、海軍入隊、ネイビーシールズへの配属までが無駄なく描かれる。ネイビーシールズの訓練シーンは、昨年公開された「ローン・サバイバー」と共通する。ここで注目は子供時代のケンカを羊、犬、狼に見立てて、世界の警察と化してしまったアメリカ国家への痛烈でシニカルな揶揄が痛快だ。

　物語はイラクへ4回派遣されてスナイパーとしての輝かしいクリスの英雄的な行動が描かれるが、それとは対照的に派遣の後に帰国後に発症する戦争後遺症と思われる、クリスの裏の顔が明確に描かれている点が興味深い。いわゆるP.T.S.D（心的外傷性ストレス）になり幻聴、被害妄想的なクリス本人にとって不利な部分も描いている所が良い。

　本作で一点気になるシーンがあるが、クリスと妻が衛星電話中に銃撃戦となり、銃撃戦の音声を聞いて妻がパニックを起こすシーンだ。この演出は古くは「エイリアン２」（86）で、海兵隊がエイリアンの住みかに入り襲撃される音声のみが無線で聞こえ、本部の中尉が慌てふためくシーンであったり、「ジュラシック・パーク」（90）のクライマックスで、恐竜の襲撃で悲鳴を上げる孫たちの音声を無線で聴き、ハモンド社長が絶叫するシーンと似ている。イーストウッドも先の作品を見ているのか聞いてみたい。

　まぁ、物語は仲間を守る為に160人射殺した伝説野郎（ｆｕｕｋｉnｇ　ｌｅｇｅｎｄ）ことクリスの輝かしい姿がメインとなるが、クリスが記者にインタビューされるシーンがある。記者が「罪悪感は無いのか？」との質問に対して、クリスは「仲間を助ける為にやった。もっと仲間を救いたかった」みたいな返答をしていて思い出すのが、ＴＢＳで以前見た、広島に落した原爆を作った科学者と被爆生存者との対話だ。被爆生存者は科学者に対して「謝って欲しい」と懇願するが、科学者は「わたしは絶対に謝らない」と頑として謝らない。それはそうである。科学者がこの場で謝ってしまうと、自分の作った原爆で亡くなった人々への罪悪感で押しつぶされてしまうからであろう。クリスの答えも科学者の理論と共通する自分を正当化する軍人らしい回答の様に感じた。

　物語はクリス退役後の２０１３年２月２日で幕は閉じられるが、明確な日にちが表示された瞬間に悪い予感がよぎり、正に悪い予感が的中し悲しい結末となる。私はクリスの最期を明確に描かない点に不満が残ったが、ｗｉｋｉで調べると残されたお子さんに配慮して、あのような形になったそうで納得した。本作はアメリカで大ヒットとなった。その答えはエンドロールを見ると判る。イーストウッド作品と見るとやや肩透かしであるが、一本の作品としての完成度は高い。