「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」@TOHOシネマズ六本木ヒルズ

 今回私は「ジャパンプレミア試写会」に招かれた。上映前にクリス・ペプラー司会、米倉涼子小芝風花の舞台挨拶があり、本編上映前からシーンを再現した寸劇やネタバレ的な会話が多く、困ったイベントである。客入りは満席、客層は大人ばかりであるが、一人だけ5歳位の女児が居た事に驚いた。ちなみに本作は鑑賞年齢制限はPG-12だ。

   
   
   映画の話
 かつてヒーロー映画『バードマン』で一世を風靡(ふうび)した俳優リーガン・トムソン(マイケル・キートン)は、落ちぶれた今、自分が脚色を手掛けた舞台「愛について語るときに我々の語ること」に再起を懸けていた。しかし、降板した俳優の代役としてやって来たマイク・シャイナー(エドワード・ノートン)の才能がリーガンを追い込む。さらに娘サム(エマ・ストーン)との不仲に苦しみ、リーガンは舞台の役柄に自分自身を投影し始め……。

   映画の感想
 本作のあらすじ「過去の栄光を引きずる主人公の苦悩と葛藤を描く」と、書くと「どこかで見た?」様な古典的な内容であるが、その描きかたが極めて斬新だ。本作は主人公の現実世界と並行して、妄想、もしくは脳内世界が混在し、しかも全編がワンカット風に撮影されている事がポイントだ。そして、本作は主人公リーガンを演じたマイケル・キートンのキャリアがそのまま物語に投映されている。台詞でも出てくるがリーガンのキャリアのピークが「1992年」と語られるが、これはキートンが主演を務めた「バットマン リターンズ」(1992)を指し、バードマンはバッドマンの隠喩的な表現で使われたと思う。

   以下ネタバレ注意

 本作のファーストカットはインパクト絶大だ。楽屋の中で座禅を組み空中浮遊状態で瞑想をするリーガンの姿を映し出す。まるでオウム真理教麻原彰晃が思い描く超能力者の姿そのものが画面に映し出される。リーガンは何も無かったように空中から地面に着地し歩きだす。「人前ではただの初老の男であるが、彼には人前では見せられぬ秘めたパワーを持った男」とまるでアメコミヒーロー=バードマンの超能力のような描写が随所に出てくる。最初は「?」と誰もが感じるが、本編を通して見て行くとその答えか判明し、映画全体がリーガンの現実と妄想が混在して描かれている事が判る。

 次に全編が繋ぎ目の無いワンカット撮影風に描かれている。撮影は「ゼロ・グラビティ」(13)のエマニュエル・ルベツキだ。「ゼロ・グラビティ」でも冒頭13分間のワンカット撮影が話題となったが、本作は120分間全編がワンカット風である。恐るべし作品であるが、日本でもP.O.V.映画の第一人者白石晃士監督が「ある優しき殺人者の記録」(14)で、ほぼ全編ワンカット撮影にチャレンジしている。話は本作に戻り、もう一点、驚く撮影がある。舞台劇を背景としたドラマには何度も楽屋が登場し、鏡越しにキャストを捉えるシーンがあるが、撮影しているカメラが一度も映り込んでいない。デジタル撮影が成せるデジタル処理なのだろうか?メイキングを見てみたい。

 そしてキャスティングも面白い。落ち目の俳優リーガンに対して、自由奔放な代役俳優マイク(エドワード・ノートン)の存在がドラマのアクセントとなりリーガンを苦しめる。久々にノートンが良い演技である。ブロードウェイ舞台を背景にしたドラマは、舞台の表と裏を使い、楽屋オチ的なネタも多い。ブロードウェイ舞台劇の興業を左右する力のある批評家タビサ(リンゼイ・ダンカン)とリーガンの会話は興味深い。特にタビサに対するリーガンの反論は我々末端の映画ブロガーも耳が痛いお言葉である。

 「バベル」(06)、「BEAUTIFUL ビューティフル」(10)で卓越した人間ドラマを描いたアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督。本作ではコメディドラマと言うジャンルを使いながら、現実と妄想を絡めた独創的な手法で、人間の欲と願望と言う普遍的なテーマを見事に描き出した。妄想世界では超能力者のリーガンも、事故により劇場から締め出され、パンツ一丁でブロードウェイの街中を歩き回るシーンは、妄想で鼻っ柱が伸び切った彼のプライドをたたき折る様に、世間が見た現実の自分と無力を対峙させる演出も秀逸だ。そしてソーシャルメディアの申し子となるYoutubeTwitterFacebookら流行のSNSを軽く皮肉るセンスも痛快だ。更にアントニオ・サンチェスのドラムのみの即興演奏をフィーチャーしたスコアを含め、何処までも「斬新で独創的」と言う唯一無二な作風は、どちらかと言うと万人向けと言うよりも玄人受けする作品になるだろう。
 
    サウンドトラック
    

   劇中の舞台劇原作本
   

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