映画「プリズナーズ」@松竹試写室
今回私は映画レビューサイトCOCOさんの独占試写会に招かれた。客入りは若干空席の残る九割位だ。


映画の話
家族と過ごす感謝祭の日、平穏な田舎町で幼い少女が失踪(しっそう)する。手掛かりは微々たるもので、警察(ジェイク・ギレンホール)らの捜査は難航。父親(ヒュー・ジャックマン)は、証拠不十分で釈放された容疑者(ポール・ダノ)の証言に犯人であると確信し、自らがわが子を救出するためにある策を考えつくが……。
映画の感想
非常に重く考えさせられる作品だ。監督はカナダ出身で「灼熱の魂」
のドゥニ・ヴィルヌーヴだ。前作も衝撃的な作品であったが、本作も別の意味でかなりの衝撃作だ。
以下ネタバレ注意
物語は娘を誘拐された父親ケラーとその家族の苦悩を描いた作品であるが、被害者となった父親のとった社会常識を逸脱した行動に焦点があてられる。その行動とは、警察が野放しにした誘拐の容疑者アレックスを父親が拉致する。そして、空き家となった一軒家に監禁して、自らの手で娘の居場所を聞き出そうと試みる。しかし、事件について一切口を割らない容疑者に対して、父親は暴力で口を割らせようとする。娘の事を思いエスカレートする父親の暴力はやがて拷問のような形へと発展し、被害者だった父親は加害者へと変貌する。
題名となる「プリズナーズ」は“囚人たち”を意味する。この作品で囚われの身となるのが、犯人に誘拐されて監禁されてしまう二人のお子さんと、被害者の父親に監禁される容疑者アレックスとなり、最終的にケラーまでもが囚われの身となる。「目には目を歯には歯を」と言う言葉があるが、本作の父親の行動は先の言葉を思い出してしまう。娘を思い暴走する父親と、彼の娘と一緒に娘を誘拐された黒人夫婦。同じ被害者同士であるが、ケラーの暴走する行動を快く思わない黒人夫婦との温度差が生まれてくる。一方、誘拐事件捜査を続けるロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)の前に不審な別の容疑者が浮上する・・・。
「プリズナーズ」は先の見えない物語と役者たちの熱演で異常な緊張感を生み出した。ヒュー・ジャックマン、ジェイク・ギレンホールら主要キャストの演技も素晴らしいが、容疑者を演じたポール・ダノの名演が本作の要だ。先ごろ公開された「それでも夜が明ける」では、黒人奴隷をいじめる高圧的な白人を演じていたと思ったら、本作では知的障碍者の少女誘拐容疑者である。おどおどとした態度と全く読めない心理が事件をかく乱し、ケラーを暴走させてしまう。私はいつも通りに何も知らずに本作に挑んだが、容疑者役がしばらくポール・ダノと気づかない位に化けていた。ダノは役の幅の広い俳優だ。
物語は紆余曲折を経てロキ刑事が真犯人へとたどり着く訳だが、もう少し真犯人の心理を掘り下げてほしい気がした。しかし、アメリカと言う国は年間ウン万人単位の行方不明者があるそうだ。ロキと真犯人が対峙するシーンは「サイコ2」の後半のキッチンのシーンを思い出し、話の不気味さは何故か「悪魔のいけにえ」を思い出してしまった。「サイコ」と「悪魔のいけにえ」も元を辿れば連続殺人鬼エド・ゲインをモデルにした作品なので、両作品を思い出しすのはしょうがない。
そんな中、本作で一番ハラハラしたのは負傷したロキが、身柄を確保したケラーの娘を病院に車で向かうシーンが一番恐ろしい。犯人からの攻撃で負傷したロキは血が目に入り、視界不良で車を猛スピードで運転し、何時ほかの車と衝突しそうな勢いで車を暴走させる。観客は「ロキがケラーの娘と共に事故死してしまうのではないか?」と要らぬ心配をしてしまうシーンに恐怖を感じた。
本作のヴィルヌーヴ監督は大事なシーンをあえて描かない。その傾向が顕著に表れるのがラストシーンだ。ケラーの娘が最初に家に取りに戻った「赤いホイッスル」が回り巡り、ケラーが監禁される穴で発見される。ホイッスルと言えばあの大ヒット作「タイタニック」でも大活躍した小道具だ。多くの観客はホイッスルを見て「もしや・・・」と後の展開を想定したはずだ。ホイッスルは観客の想像通りの使われ方がするが、監督はあえてケラーの救出シーンを描かなかった。ロキが微かに聞こえるホイッスルの音を認識したショットで映画は幕を引く。観客の想像に委ねた余韻を残す上手い幕引きだ。かなりヘビー級な作品であるが、人間心理を深く掘り下げたサスペンス作品として見応え十分である。
映画の話
家族と過ごす感謝祭の日、平穏な田舎町で幼い少女が失踪(しっそう)する。手掛かりは微々たるもので、警察(ジェイク・ギレンホール)らの捜査は難航。父親(ヒュー・ジャックマン)は、証拠不十分で釈放された容疑者(ポール・ダノ)の証言に犯人であると確信し、自らがわが子を救出するためにある策を考えつくが……。
映画の感想
非常に重く考えさせられる作品だ。監督はカナダ出身で「灼熱の魂」
以下ネタバレ注意
物語は娘を誘拐された父親ケラーとその家族の苦悩を描いた作品であるが、被害者となった父親のとった社会常識を逸脱した行動に焦点があてられる。その行動とは、警察が野放しにした誘拐の容疑者アレックスを父親が拉致する。そして、空き家となった一軒家に監禁して、自らの手で娘の居場所を聞き出そうと試みる。しかし、事件について一切口を割らない容疑者に対して、父親は暴力で口を割らせようとする。娘の事を思いエスカレートする父親の暴力はやがて拷問のような形へと発展し、被害者だった父親は加害者へと変貌する。
題名となる「プリズナーズ」は“囚人たち”を意味する。この作品で囚われの身となるのが、犯人に誘拐されて監禁されてしまう二人のお子さんと、被害者の父親に監禁される容疑者アレックスとなり、最終的にケラーまでもが囚われの身となる。「目には目を歯には歯を」と言う言葉があるが、本作の父親の行動は先の言葉を思い出してしまう。娘を思い暴走する父親と、彼の娘と一緒に娘を誘拐された黒人夫婦。同じ被害者同士であるが、ケラーの暴走する行動を快く思わない黒人夫婦との温度差が生まれてくる。一方、誘拐事件捜査を続けるロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)の前に不審な別の容疑者が浮上する・・・。
「プリズナーズ」は先の見えない物語と役者たちの熱演で異常な緊張感を生み出した。ヒュー・ジャックマン、ジェイク・ギレンホールら主要キャストの演技も素晴らしいが、容疑者を演じたポール・ダノの名演が本作の要だ。先ごろ公開された「それでも夜が明ける」では、黒人奴隷をいじめる高圧的な白人を演じていたと思ったら、本作では知的障碍者の少女誘拐容疑者である。おどおどとした態度と全く読めない心理が事件をかく乱し、ケラーを暴走させてしまう。私はいつも通りに何も知らずに本作に挑んだが、容疑者役がしばらくポール・ダノと気づかない位に化けていた。ダノは役の幅の広い俳優だ。
物語は紆余曲折を経てロキ刑事が真犯人へとたどり着く訳だが、もう少し真犯人の心理を掘り下げてほしい気がした。しかし、アメリカと言う国は年間ウン万人単位の行方不明者があるそうだ。ロキと真犯人が対峙するシーンは「サイコ2」の後半のキッチンのシーンを思い出し、話の不気味さは何故か「悪魔のいけにえ」を思い出してしまった。「サイコ」と「悪魔のいけにえ」も元を辿れば連続殺人鬼エド・ゲインをモデルにした作品なので、両作品を思い出しすのはしょうがない。
そんな中、本作で一番ハラハラしたのは負傷したロキが、身柄を確保したケラーの娘を病院に車で向かうシーンが一番恐ろしい。犯人からの攻撃で負傷したロキは血が目に入り、視界不良で車を猛スピードで運転し、何時ほかの車と衝突しそうな勢いで車を暴走させる。観客は「ロキがケラーの娘と共に事故死してしまうのではないか?」と要らぬ心配をしてしまうシーンに恐怖を感じた。
本作のヴィルヌーヴ監督は大事なシーンをあえて描かない。その傾向が顕著に表れるのがラストシーンだ。ケラーの娘が最初に家に取りに戻った「赤いホイッスル」が回り巡り、ケラーが監禁される穴で発見される。ホイッスルと言えばあの大ヒット作「タイタニック」でも大活躍した小道具だ。多くの観客はホイッスルを見て「もしや・・・」と後の展開を想定したはずだ。ホイッスルは観客の想像通りの使われ方がするが、監督はあえてケラーの救出シーンを描かなかった。ロキが微かに聞こえるホイッスルの音を認識したショットで映画は幕を引く。観客の想像に委ねた余韻を残す上手い幕引きだ。かなりヘビー級な作品であるが、人間心理を深く掘り下げたサスペンス作品として見応え十分である。
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