映画「星守る犬」@一ツ橋ホール

 試写会場の客入りは9割くらい。土曜日昼間の試写会という事で、客層はお子さんからお年寄りまで幅広い客層だ。
 

 映画の話
北海道の小さな町で、死後半年を経過したとみられる男性(西田敏行)と、死後ひと月の犬の遺体が見つかる。市役所の福祉課勤務の奥津(玉山鉄二)は、遺棄された車に残されていたリサイクルショップの買い取り証を発見。彼は仕事上仕方なく、50代とおぼしき身元不明の男性と犬がたどったと思われる道をさかのぼる旅に出ることになる。


 映画の感想
何もかもが曖昧な中途半端な作品で感情移入し辛い。物語の核となる西田敏行演じる男の歩む道筋は、まるでショーン・ペン監督「イン・トゥ・ザ・ワイルド」の主人公に似ていて影響、もしくはパクリ疑惑まで感じてしまう。

 映画の入り口は大胆だ。てっきり西田敏行主演と思っていた観客の期待を裏切、西田演じる男は、いきなり身元不明の白骨死体として発見される幕開けには意表をつかれた。その為に西田の出演は映画幕開け後しばらくしてからになり、しばらくはもう一人の主人公・奥津(玉山鉄二)の生い立ちと現在が描かれる。

   以下ネタばれ注意

 私は原作となったコミックを未読の為に不明であるが、奥津の生い立ちパートはあんなにあっさりとした物だろうか?作り手としては奥津の孤独感を観客に伝える為のパートとなるのだが、あんまりにも彼の生い立ちを端折り過ぎて感情移入が出来ないまま、彼は見ず知らず男の為に有給+自腹で身元不明の男の歩んだ道を知る為に旅立つ動機付けが非常に曖昧なのが駄目である。

 同じように、奥津の旅のお供となる川島海荷演じる有希の存在も非常に曖昧だ。彼女はタレントオーディションを受ける為に家出同然で旭川から東京に出てきて、たまたま旭川ナンバーの奥津の車を発見して、強引に奥津の旅に同行する事になる設定であるが、若く可愛い女子がこんな大胆な行動を取るのだろうか?何か、本作は行動への動機付けが何もかも曖昧でイージーな設定で、観客を納得させるレベルに達していない見切り発車状態な設定がいただけない。

 映画の構成は奥津と有希の現在パートが案内役となり、男が死後残したレシート3枚を頼りに、男の辿った足跡の過去パートが交差しながら展開する。割と重めの現在パートと比べると、映画前半から中盤は西田の醸し出す暖かい人柄が相成り明るく楽しいのがポイントだろう。旅館のキーワードとなる釣り大会、福引き券なんかは西田が演じた楽屋落ち的な設定がされていてニヤリとしてしまう。(映画後半の持病に苦しむ西田の姿は逆に笑えない)対照的に奥津は余貴美子演じる旅館の未亡人女将に誘惑されながら拒絶してしまう駄目男ぶりに見ていて落胆してしまう。

 次に奥津が向かう、福島県いわき市のコンビニ兼海の家かな?の件も、男が浮浪者少年と出会うエピソードも何か中途半端で、結局、少年が何者だったのか描かないのは納得できない。少年のせいで男は一文無しになってしまうのだから、少年の生い立ちもしっかり描くべきであろう。

 奥津は手がかりのレシートを辿り、遠野の古物店、石狩のレストランへと巡り、映画は並行して男の歩んだ人生にスポットをあてる。一見、ノー天気だった男の不遇な人生を現代日本が抱える不況の嵐とリンクさせながら、死に至るまでの過程が淡々と描かれるが、ここからは正に「イン・トゥ・ザ・ワイルド」になってしまう。しかし、ここで苦言を述べたい。結局、男は持病+衰弱死のような形で息を引き取るのだが、まるまると太った西田の役作りをしない心意気には賛同できない。いくらメイクや衣装で隠せても、あの太り方ではリアルティに欠ける。 追記6月12日放送「王様のブランチ」出演時の西田敏行によると、冬のシーンは監督に指摘され8kgの減量をしたそうです。フィルムからは減量による変化が感じられなかったのが残念である。

 映画はタイトルに犬が付けられている通りに、二頭の犬が物語を彩る。奥津が子供時代から飼っていたクロと、男に連れ添ったハッピーだ。次々と家族との別れを経験した奥津にとってクロは最後の家族であり、心の支えとなったパートナーであった犬だ。そして男の飼い犬ハッピーも、家族や人々に裏切られ続けられる中、最後まで寄り添う忠犬ぶりは頭が下がる思いだ。そんな中、本作は犬に対して人間が行う虐待行為も正面から描いた点は良い。曖昧模糊とした作風の中でも、作り手もここだけは筋を通したかったのだろう。

 本作にかかわった人々やロケ地は東日本大震災で被害を相当受けたそうだ。今はまだ本作に対して辛口な見方しか出来ないが、何年か経ったら東北地方の美しい風景がフィルムに刻まれた、愛おしい作品になるかもしれない、時間が経ったらもう一度見てみるのもいいかもしれない・・・。

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