映画「マイ・バック・ページ」@よみうりホール

 試写会の客入りは9割くらい、妻夫木×マツケン共演作だからなのか女性客が多い。

   
画像

映画の話
 全共闘運動が最も激しかった1960年代後半、週刊誌編集部で働く記者・沢田(妻夫木 聡)は、理想に燃えながら日々活動家たちの取材を続けていた。ある日、梅山と名乗る男(松山ケンイチ)から接触を受けた沢田は、武装決起するという梅山の言葉を疑いながらも、不思議な親近感と同時代感を覚えてしまう。


 映画の感想
 とても見ごたえのある濃密で硬派な社会派ドラマである。私は基本的に映画は予備知識なしで見るのがベストと考えているが、本作に限っては映画の時代背景を予習する事をお勧めする。そして、本作の原作者で主人公のモデルとなった川本三郎氏についても知っていた方が楽しめるだろう。間違っても「妻夫木×マツケン共演作だから」なんて軽いミーハー気分の観客にはお勧めしない。映画の時代設定は激しく時代が変化していった1969~1972年をメインに、雑誌記者として野心を燃やす沢田と、学生活動家の梅山が出会った事で思わぬ方向に事態が動き出すさまが描かれる。

   以下ネタばれ注意 

 まず、本作は時代に取り残された二人の主人公がざっと描かれタイトルになるのだが、このタイトルバックが秀逸である。何も無い西新宿に建築中の京王プラザビルが映し出された瞬間に私は本作のやる気を感じ取った。建築中の京王プラザホテルといえば、70年代初頭のシンボルみたいなもので、今で言う東京スカイツリーみたいな存在だ。70年代初頭の東映不良番長」シリーズ、「キイハンター」なんぞは毎度のように、この京王プラザホテル周辺がロケ地に使われ映像として記録されている。そんな時代のシンボルをタイトルバックに選んだ山下敦弘監督のセンスにしびれる。

 映画は雑誌記者としてもう一旗上げたい沢田と、口の立つだけの思想犯的活動家・梅山、お互いが相手を利用して次のステップを目論む。しかし、沢田は記者という立場を逸脱し取材相手と親密になりすぎてしまい墓穴を掘ってしまう。逆に梅山は一流新聞系雑誌記者とパイプを持った事で思想犯から、実際に事件を起こす政治犯へと変貌を遂げる。梅山を演じるのは松山ケンイチだ。彼は作品により人格を変えるカメレオンタイプの役者で、本作ではねっちりと相手と討論したと思うと、沢田と気さくに「CCR/雨を見たかい」をギターを弾きうたい親密になり、実はいい人?と観客に思わせる好青年になったり、自分の手を汚さない冷酷な活動家気取りの若者を上手く体現している。

 沢田と梅山の関係を見ていると、ちょっとアメリカとアルカイダの関係を思わせる。支援した相手がいつの間にか強大な力をつけて支援した相手の足を引っ張り、自身も痛いしっぺ返しを喰らってしまう。いつの時代も相手を利用するもの、利用されるものの誤算はつきまとうものだ。

 私は本作をいつも通りに予備知識無しで見た訳だが、エンドロールで原作/川本三郎と表示された瞬間に、映画の中で描かれた主人公の行動が全てリンクした。川本氏はキネマ旬報でおなじみの映画評論家だ。私は毎年恒例のキネマ旬報ベストテン授賞式で何度か川本氏のお姿を拝見している。映画の中で主人公は映画館で夜明かしをし、自身が担当する雑誌の表紙モデルとデートで映画を見に行くシーンが出てきたり、「ファイブ・イージー・ピーセス」、「真夜中のカーボーイ」の登場人物の行動が引用され、その台詞はラストの伏線だったりと、映画ファンにんまりの隠し味も上手い。映画館のシーンでは有楽町スバル座のロビーを再現したシーンもあり、作り手のこだわりを感じる。沢田の現在(ここだけ時代は明かされない)の職業が「十九歳の地図」(79年)マスコミ試写のシーンで明かされるが、このシーンは一般の方にはちょっとわかりづらいかもしれない。ラストの沢田は突然「涙そうそう」の“ニイニ”になってしまうのはご愛嬌である。←【追記】一部、私の発言に誤解をしている方が居るので補足します。ここは妻夫木聡の演技力を書いているだけで、うさぎ売りの潜入取材時の元相方さんのつつましい幸せと、主人公の歩んだ人生を説明的な描写を省き、役者の演技と会話だけで対比する幕引き演出は非常に上手い。

 本作の良い所は女がでしゃばってこないのがポイントであろう。70年代の邦画を見ると判るが、まだ当時の映画は女性は添え物のように扱われ男がメインで描かれてきた。本作は正に昭和の香りを感じる男の映画であり、女性に媚を売りすぎて軟弱になってしまった現在の邦画の中では異彩を放つ作品だ。それから、この時代に生まれていない76年生まれの山下監督が本作を作り上げたのだから驚きである。本作は間違いなく2011年を代表する一本となるだろう。

   TREview


 映画「マイ・バック・ページ」関連商品
   
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by マイ・バック・ページ―ある60年代の物語 (河出文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 『マイ・バック・ページ 』OFFICIAL BOOK の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



My Back Pages(初回生産限定盤)(DVD付)
KRE
2011-05-25
真心ブラザーズ+奥田民生
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by My Back Pages(初回生産限定盤)(DVD付) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



ファイブ★イージー★ピーセス [DVD]
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2010-02-03
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ファイブ★イージー★ピーセス [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



真夜中のカーボーイ [Blu-ray]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2011-05-27
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 真夜中のカーボーイ [Blu-ray] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



十九歳の地図(廉価版) [DVD]
エースデュースエンタテインメント
2006-03-24
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 十九歳の地図(廉価版) [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


この記事へのコメント

ねこ
2011年05月21日 21:01
>ラストの沢田は突然「涙そうそう」の“ニイニ”になってしまうのはご愛嬌である。

馬鹿すぎる。あまりにも頭の悪い感想をよくも世間にさらせたものだ。
こんなのでレビューを名乗るなよ。
あのラストがすべてであり、あのカットに込められたテーマがわからなかったのか。
それまで2時間余何見てたんだ?
粉川哲夫氏のレビューでも読んで反省しろ。
2011年05月22日 00:06
ねこさんへ

そう見えたので仕方が無いというか、妻夫木の演技の幅の狭さを遠まわし愚痴っただけです。
ラストショットは理解しています。
ところで君はどんな感想をお持ちですか?
私は砂川氏より君の感想が知りたい、ブログをお持ちならURLを教えて欲しい。

この記事へのトラックバック

  • マイ・バック・ページ

    Excerpt: 試写会で観ました。学生運動のリーダーとリーダーを追いかけるジャーナリストのお話で Weblog: うろうろ日記 racked: 2011-05-23 22:54
  • マイ・バック・ページ 2011.4.27

    Excerpt: タイトル:「マイ・バック・ページ」 Yahoo!映画:http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tymv/id338494/ 日にち:2011年4月27日(水) 場所.. Weblog: Penguin Cafeのいろいろ感想文 racked: 2011-05-24 18:09
  • マイ・バック・ページ

    Excerpt:  4月27日(水)アスミックエース試写室にて映画「マイ・バック・ページ」を鑑賞。  妻夫木&松ケン初共演も気になるが、全共闘時代の事実を元にした映画とのことで観たいと思った作品です。  原.. Weblog: 気ままにブログ racked: 2011-05-27 21:32
  • レビュー:マイ・バック・ページ

    Excerpt: 『運命のひとひねり』 / 冒頭、画面にはまだアスミック・エースやWOWOWのロゴしか出ていないうちから、1分1秒を惜しむかのように、1969年1月の東大安田講堂攻防戦を伝えるナレーションがあわただしく.. Weblog: INTRO racked: 2011-05-28 13:37
  • [映画『マイ・バック・ページ』を観た(短信)]

    Excerpt: ☆この映画、面白い!  二時間半の長尺だが、夢中になってみた。  内容は、東大安田講堂事件以後の、輝きを失いつつある全共闘運動を背景にした、とある、運動家か、運動家に憧れる者か、正体判別つからざる.. Weblog: 『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭 racked: 2011-06-03 00:02
  • マイ・バック・ページ

    Excerpt: 公式サイト。 川本三郎原作、 山下敦弘監督、妻夫木聡、松山ケンイチ、忽那汐里、山内圭哉、中村蒼、韓英恵、長塚圭史、石橋杏奈、あがた森魚、三浦友和。 評論家川本三郎の自伝的 ... Weblog: 佐藤秀の徒然幻視録 racked: 2011-06-03 14:00
  • 「若さ」という熱病~『マイ・バック・ページ』

    Excerpt:  東大を卒業し、念願のジャーナリストになるべく東都新聞に入社、雑誌記者と して働く沢田(妻夫木聡)。1971年、彼は梅山と名乗る学生運動の活動家(松山 ケンイチ)と接触し、ある事件に巻き込まれ.. Weblog: 真紅のthinkingdays racked: 2011-06-03 15:11
  • マイ・バック・ページ

    Excerpt: 作家・評論家の川本三郎が自らの体験を綴った同名の回想録を映画化。1969年から72年と言う学生運動が終わりに近付いた時期を舞台に、雑誌記者と活動家の出会いから破滅までを描く。主演は『悪人』の妻夫木聡と.. Weblog: LOVE Cinemas 調布 racked: 2011-06-03 22:06
  • 映画『マイ・バック・ページ』

    Excerpt: ちょうど40年くらい前の、 よく、団塊の世代の方々の青春時代、「全共闘時代」の頃。 『ノルウェイの森』や『TAROの塔』や『ゲゲゲの女房』にも描かれていた、 何か新しい時代の幕開けを予感させ.. Weblog: よくばりアンテナ racked: 2011-06-03 22:45
  • 映画「マイ・バック・ページ」そんな時代もあったねと

    Excerpt: 「マイ・バック・ページ」★★★☆ 妻夫木聡 、松山ケンイチ、 忽那汐里、石橋杏奈、中村蒼、韓英恵出演 山下敦弘監督、 141分 、2011年5月28日日公開2010,日本,アスミック・エース (原作.. Weblog: soramove racked: 2011-06-03 23:50
  • 勘違い男の暴走。『マイ・バック・ページ』

    Excerpt: 1969年から1972年を舞台に左翼思想の学生と雑誌記者の関係を描いた作品です。 Weblog: 水曜日のシネマ日記 racked: 2011-06-04 09:54
  • ■映画『マイ・バック・ページ』

    Excerpt: 妻夫木聡と松山ケンイチの競演が話題の山下敦弘監督の映画『マイ・バック・ページ』。 1969年から始まる映画というので、“LOVE & PEACE”で牧歌的でハッピーな青春物語かと思いきや、学生運.. Weblog: Viva La Vida! <ライターCheese の映画やもろもろ> racked: 2011-06-04 23:14
  • 映画「マイ・バック・ページ」感想

    Excerpt: 映画「マイ・バック・ページ」観に行ってきました。 学生紛争の末期となる1969年から1972年の日本を舞台に、雑誌記者と自称革命家との出会いから破滅までを描く、妻夫木聡と松山ケンイチ主演の作品です。.. Weblog: タナウツネット雑記ブログ racked: 2011-06-06 01:23
  • マイ・バック・ページ/妻夫木聡、松山ケンイチ

    Excerpt: 私の大好きな『リンダ リンダ リンダ』その他いろいろの山下敦弘監督が実話ベースの社会派作品を手がけたというだけでもちょっと驚きでしたけど、その主演が妻夫木くんに松山ケン ... Weblog: カノンな日々 racked: 2011-06-06 21:27
  • 『マイ・バック・ページ』 若者に足りないものは?

    Excerpt:  【ネタバレ注意】  誰が云ったか知らないが、よく持ち出される言葉にこんなものがある。[*]  「20歳までに左翼に傾倒しない者は情熱が足りない。20歳を過ぎて左翼に傾倒している者は知能が.. Weblog: 映画のブログ racked: 2011-06-07 00:35
  • マイ・バック・ページ

    Excerpt: 2011年6月7日(火) 15:20~ TOHOシネマズ川崎プレミアスクリーン 料金:1300円(シネマイレージデー) パンフレット:未確認 『マイ・バック・ページ』公式サイト 団塊の世代の若い頃.. Weblog: ダイターンクラッシュ!! racked: 2011-06-09 18:08
  • 『マイ・バック・ページ』

    Excerpt: □作品オフィシャルサイト 「マイ・バック・ページ」□監督 山下敦弘 □脚本 向井康介□原作 川本三郎 □キャスト 妻夫木 聡、松山ケンイチ、忽那汐里、中村 蒼、韓 英恵、長塚圭史、あがた森.. Weblog: 京の昼寝~♪ racked: 2011-06-17 12:05
  • マイ・バック・ページ

    Excerpt:  『マイ・バック・ページ』を吉祥寺バウスシアターで見ました。 (1)こうした40年ほども昔の、それも学生闘争という特殊な事柄を扱った映画なら、入りがかなり悪いのではと思っていたところ、日曜日に見たせ.. Weblog: 映画的・絵画的・音楽的 racked: 2011-06-18 06:45