新・辛口映画館

アクセスカウンタ

zoom RSS 「母と暮せば」@よみうりホール

<<   作成日時 : 2015/12/01 19:20   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 10 / コメント 0

 「報知映画賞特選試写会」名目で開催された試写会に参加した。客入りは満席、女性客が多い。

   

   映画の話
 1948年8月9日、長崎で助産師をしている伸子(吉永小百合)のところに、3年前に原爆で失ったはずの息子の浩二(二宮和也)がふらりと姿を見せる。あまりのことにぼうぜんとする母を尻目に、すでに死んでいる息子はその後もちょくちょく顔を出すようになる。当時医者を目指していた浩二には、将来を約束した恋人の町子(黒木華)がいたが……。

   映画の感想
 私は「山田洋次監督が長崎を舞台に戦争を背景にしたドラマを作った」と言う事と、主演は吉永小百合二宮和也というキャストが配役されている情報のみを入れて本作を鑑賞した。私の予想では吉永&二宮親子の家族ドラマなんて勝手に想像していたが、見事に冒頭に驚かされる。

 白黒画面で幕を開けるドラマは、米軍の原爆投下により、医大生の浩二は死んでしまう。原爆投下を個人視点で描いた描写はほぼパーフェクトと言える、無駄のない演出に唸らせる。しかし、その後、画面はカラーになり、ドラマは悪い方向に動き出す。

   以下ネタバレ注意

 原爆で死んだ浩二が母・伸子の前に現れる。そう、本作は山田監督初のファンタジー作品なのだ。山田監督は一貫して家族や庶民の暮らしを悲喜劇で描き、その真骨頂は「男はつらいよ」シリーズだ。近年は時代劇も撮っていたが、やはり山田監督と言えば家族のドラマだ。それでも監督はドラマばかりをとっていた訳ではない。「男はつらいよ」の冒頭で寅次郎の見た夢世界を映像化して、西部劇やスペクタクルなど色々なパターンを描いてきた。私はその冒頭を見るたびに「本当は監督は色々なジャンルの作品を撮りたいのでは?」と妄想していた。

 そんな山田監督にとって年齢的にカウントダウンが近づき、未開のジャンル作品を作りたかったのだろう。その作品こそが「母と暮せば」なのだ。しかし、完成品は山田監督の優しさが全面的に出てしまい、戦争の悲惨さを描くまで至らなかった。本作は基本的に舞台劇の様に、役者の演技と台詞に重点が置かれて、映像で訴える作品とは違うアプローチが取られて、戦争の残酷さは冒頭の原爆投下シーンだけで、他の戦争による悲劇は全てセリフで説明する悪い演出が取られている。

 監督の「母べぇでその片鱗は見えていた。1941年に日本が戦争を開戦した時代の話は、台詞で「地獄の3年間だった」とサラりと語り割愛してしまった。本作も全く同じパターンで、原爆投下された長崎の街並みのシーンも無く、原爆で生き延びた浩二の恩師・川上教授が辿る悲惨な運命もセリフで説明して、憲兵に捕まった浩二が味わった屈辱も台詞のみで、息子を助けに来た伸子の憲兵に対しての気丈な振る舞いシーンもない。せっかく、戦争と言う日本が味わった悲惨な出来事を、二宮目当ての若い観客に伝えるチャンスを得たのに、監督は放棄してしまった。これでは戦争を背景にしたドラマとして駄目である。その点「少年Hはかなり明確に戦争を庶民目線で描いていたと改めて感じた。

 さて、死者が生者の前に普通に表れる近作に「岸辺の旅」がある。この作品で死んでしまった夫を演じた浅野忠信が本作にも出演している。方やホラーの巨匠・黒沢清と、家族ドラマの巨匠・山田洋次。同じ死者が家族の前に現れるファンタジーだが、軍配は当然、黒沢清監督にあがる。甘さばかりが目立つ「母と暮せば」に対して「岸辺の旅」は、死者の未練と絶望感が描かれていた、流石黒沢監督だ。

 しかし、本作でもいいセリフがある。原爆で亡くなった浩二が「運命だった」と自分の死を受け入れる台詞に対して、伸子が「運命ではない、人間が作ったものだ」と息子の考えを否定する。多分、本作が一番言いたかった事はこのセリフに込められているのだろう。

 それと、もう一つ良いシーンがある。父親の消息を探しに復員局へ町子(黒木華)が、自分の教え子・民子(本田望結)を連れて行くシーンがある。ややベタなシーンであるが、職員の小林稔侍の演技と相成り、山田監督らしい良いシーンに仕上がった。

 そして、長崎を舞台にしたドラマはキリスト教伝来の地として知られる場所だ。伸子もキリスト教の教えにのっとり、礼拝をするシーンなど、小出しに宗教の影が見え隠れするドラマであるが、最終的にやってくれる。何故かぴっちりと着物を着こんで寝てしまう伸子に疑念を感じて見ていると、そのまま息を引き取り、その姿のまま迎えに来た浩二と共に天国に行くシーンとなるが、ここで宗教色が大爆発してハレルヤ的なエンドロールが始まり、ドン引きしてしまった。

 せっかく坂本龍一がピアノと弦楽を主体にしたスコアで抑えに抑えてきた音楽を台無しにする様な、ノー天気で薄気味悪いエンドロールに監督の神経を疑いたい。もう、いっその事「千の風になって」でもかけた方が良かった。私は山田洋次監督作品をおおむね肯定的に受け止めてきたが本作は駄目である、期待しただけに落胆の大きい作品になってしまった。監督の次作「家族はつらいよ」に期待したい。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(10件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
母と暮せば
まるで吉永小百合による朗読の再現劇。   ...続きを見る
Akira's VOICE
2015/12/12 17:45
母と暮せば〜原節子→蒼井優→黒木華
公式サイト。山田洋次監督、音楽:坂本龍一。吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一、 広岡由里子、本田望結、小林稔侍、辻萬長、橋爪功。ニノは幽霊なのでスチール写 ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2015/12/12 18:27
『母と暮せば』 2015年11月27日 よみうりホール
『母と暮せば』 を試写会で鑑賞しました。 ...続きを見る
気ままな映画生活(適当なコメントですが、...
2015/12/12 21:46
母と暮せば
母と暮せば@一ツ橋ホール ...続きを見る
あーうぃ だにぇっと
2015/12/12 21:56
母と暮せば ★★★★
「おとうと」「小さいおうち」の山田洋次監督が、吉永小百合と二宮和也を主演に迎えて贈るヒューマン・ファンタジー・ドラマ。戦後の広島を舞台にした父と娘の物語『父と暮せば』を手がけた井上ひさしが生前に構想していた長崎が舞台の物語というアイデアを山田監督が受け... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2015/12/12 23:21
母と暮せば
1948年8月9日。 長崎で助産婦をしている伸子の前に、3年前に原爆で亡くしたはずの息子・浩二がひょっこり現れる。 その後、浩二は時々伸子の前に現れ、二人はたくさんの話をするようになった。 一番の関心は浩二の恋人・町子のこと。 「いつかあの子の幸せも考えなきゃね」。 そんなふたりの時間は、永遠に続くように見えたが…。 ヒューマンドラマ。 ...続きを見る
象のロケット
2015/12/14 19:28
母と暮らせば
戦争で生き残った遺族の生き辛さを表現している物語だ。色々なエピソードが登場するけど、息子の言葉は母の心の葛藤なのだ。子供が父の消息を尋ねるシーンが感動的だった。あれが未来に向かう本来の姿だ。 ...続きを見る
とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ve...
2015/12/16 23:33
『母と暮せば』('15初鑑賞91・劇場)
☆☆☆☆☆ (10段階評価で 10) 12月12日(土) OSシネマズ神戸ハーバーランド スクリーン7にて 16:10の回を鑑賞。 ...続きを見る
みはいる・BのB
2015/12/21 20:47
映画「母と暮せば」
映画「母と暮せば」を鑑賞しました。 ...続きを見る
FREE TIME
2015/12/23 18:50
『母と暮せば』
母と暮せば 長崎に落とされた原爆で亡くなった筈の息子の亡霊が、 3年ぶりに母親の前に現われて、婚約者の行く末を案じる... ...続きを見る
cinema-days 映画な日々
2017/01/22 15:03

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
「母と暮せば」@よみうりホール 新・辛口映画館/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる