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zoom RSS 映画「北のカナリアたち」@新宿バルト9

<<   作成日時 : 2012/12/14 19:20   >>

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公開からひと月が過ぎた土曜日の夜。定員80名のシアター4には8.5割くらいの客入りだ。



  映画の話

 日本最北の島で小学校教師をしていた川島はる(吉永小百合)は、ある事故をきっかけに島から出て行ってしまう。それから20年後、東京の図書館で働いていた彼女は、教え子の一人が事件を起こしたことに疑問を抱き、かつての自分が受け持っていた生徒たちに会うため北海道へ向かう。恩師と再会した教え子たちは、それぞれに抱える複雑で苦しい胸中を明かす。

  映画の感想

 元教え子が起こした殺人事件を巡り、担任教師が事件の手がかり紐解くように5人の教え子たちに会いに行き、真実を見極めようとする姿を描いた作品だが、描き方が現代と過去を交差させて展開する構成で、一筋縄ではいかない。ミステリー作品のような形であるが、その根底には人の記憶の曖昧さや、思い込み、先入観、妬みといった人間の深層心理が描かれている。

   以下ネタばれ注意

 幕開けは、島を去る川島に島民が拒絶するような行動が描かれ、彼女が親しげに声をかけた少年から逆に石を投げられて額から血を流すという、吉永小百合主演映画としては異例となる展開に、観客は「主人公に一体何があったんだ?」と謎を投げかけるツカミ演出がうまい。この冒頭の演出は吉永が好きだというデヴィッド・リーン監督「ライアンの娘の主人公の姿を彷彿とさせる。

 物語が描かれる時代は2つだ。図書館努めで定年間際の川島が生きる現代と、川島が北海道の離島で教師をしていた20年前が複雑に交差しながら描かれる。描き方も陽光輝く暖かい過去に対して、現代は雪が降る寒々しい風景が背景となる。この辺の描き方は撮影監督の木村大作の腕の見せ所だ。寒々しい雪の風景は木村大作が撮影監督を務めた「八甲田山」を思い出してしまう。木村大作が撮影した大自然の雄大な風景はタイトルバックや、物語の随所にインサートされて効果を発揮する。

 元教え子たちに会うために北海道に向かった川島は、一人一人順番に会うわけだが、生徒たちが過去の出来事に対して意見が微妙に食い違いを見せる。一番の違いを見せるのが、川島の夫・行夫が海で溺れ死んだバーベキュー大会の日だ。川島が島を去る原因となった悲しい事件であり、教え子たちも未だに心に深い傷を負っているトラウマを聞く内に、事件の見え方が多角的に違う事が判ってくる。

 本作の物語は物事に対して主観的に見たものと、客観的に見たものが、それぞれ抜け落ちた形で描かれている。観客は最初、枠と一部が埋まった空白だらけのジグソーバズルが見せられる。そして、物語が進行すると、あるべき所にパズルのピースがピタリと埋まり、全体像が見えてくる仕組みだ。過去の事件の当事者たちは、その事柄に対して仰視して周りが見えない状態であったが、事件に対して色々な意見を聞く内に俯瞰として捉えて真実が見極められる。

 難しい書き方をしてしまったが、本作は人によって見え方がそれぞれ違い、角度を変えてみると違う一面が見えてくる様を描いている。一番顕著に感じたのが川島の夫・行夫だ。誰もが行夫に対して「いい人だった」という答えが帰ってくるが、実は行夫は病気であと半年の寿命が宣告されて苦しんでいた事が川島の口から語られる。更に、生徒の可愛がっていた犬を行夫が虐待していた事実も明らかになる。事故死と思われた川島の死も「実は・・・」という解釈も提示される。

本作は吉永小百合主演作の中でも、実に意欲的な作品で良く出来ているし素直に感動した。川島の20年後の教え子を演じた森山未來、勝地涼、松田龍平、満島ひかり、宮崎あおい、小池栄子といった旬な役者たちの好演も手伝い、見応えがあった。唯一、欠点を挙げると島の巡査を演じた仲村トオルの存在だ。川島と巡査が不倫関係だったらしいのだが、それを匂わすキスシーンが有るものの、確信的な描写が無い為に、二人の関係が曖昧となってしまったのは残念である。この辺は清純派を貫き通す女優として吉永小百合の限界を感じた。本作は私の苦手な阪本順治監督作品と言う事で心配したが、本作は監督のカラーを消して職人に徹したことで良い作品に仕上がった。東映60周年記念作品として相応しい作品である。

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佐藤秀の徒然幻視録
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2012/12/21 23:50

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